COLUMN

これからのモノづくりについて

2019年03月


みなさん、今回が「事務局長」としての最後の独り言となります。
これまで8年と10ヶ月の間、大変お世話になり、本当にありがとうございました。

さて、最後の独り言なので何について書こうかと色々迷いましたが、最近、特に強く感じているモノづくりの地殻変動について書きたいと思います。

2年前の独り言に、日本の自動車メーカーは車を売らずに保有し続け、リースや、関連するサービスの対価として利益を得るモデルに転換してはどうか、といったことを書きました。
当時の文脈は、資源(材料)の価格はいずれ上昇していくだろうから、売らずに保有し、サービス(=ソフト)で儲ける仕組みとし、車体(=ハード)はリサイクルを含めて資源を有効活用できるモデルにすることが合理的で、実物資産を持たないウーバーなどに比べ、圧倒的な物量を誇る日本の自動車メーカー(2017年の年間生産台数:28百万台強)が実行すれば大変な強みになるといった内容でした。

しかし、IT企業の成長スピードは凄まじく、先日、日産が自動運転技術分野でグーグル系のウェイモの軍門に下った(←言い過ぎでしょうか?)といったニュースが流れました。世の中は、僕が思っていたよりずっと早く動いているようです。

総じて日本の大企業の動きは遅く、思考も周回遅れで気づいた時には茹でガエル、動きの早い海外の後発企業に箸で突つかれて美味しく食べられてしまうといったことが過去に何度もありました。
日本が強いと言われている自動車分野もそうなってしまうのでしょうか?

ITの進歩でモノのシェアリングはし易くなり、周辺分野の技術もめまぐるしく変化、進化しています。
マッキンゼーの推計によると、欧州の自動車は廃棄されるまでの期間、平均で92%の時間は乗車されていないそうです。
有効活用されていない時間が大量にあるわけで、稼働率を上げようとシェアリングが進めば、車の位置付けは変わっていきます。
公共のバスやタクシーに乗る時、車種にこだわる人はあまり居ませんよね?
車も大多数の人にとってはそういうモノに変わっていくのではないでしょうか?
数もこだわりも減れば、自動車分野のモノづくりも変わっていくと思います。

デジタルのプログラム技術を主とするIT企業の革新スピードは早く、その成長も早くなります。一方、材料や資源といったアナログなモノを扱うモノづくり企業の成長のスピードはどうしても遅くなりがちです。
IT企業は参入のハードルが低いため競争は激しいのですが、生き残った企業はそのスピードで非常に大きな市場を手にすることができます。
まさに「侵略すること火の如し」といった感じでしょうか。
今、自動運転分野で起きているIT企業と自動車メーカーの逆転現象はこのスピードの差に起因する現象だと思います。

しかし、冷静に考えて見れば、規模に優れる大手自動車メーカーが、その潤沢なリソースを活用し、本腰を入れて先に取り組んでいれば、明らかに優位だったはずです。
しかしながら、現実はそうはなりませんでした。
過去の成功体験や、既存のビジネスモデル(新車の大量販売)が未来へ目を向けることを阻害したのでしょうか?
または、これほど早くコトが進むとは思わずに油断していたのでしょうか?

我々町工場も他人事と油断はできません。
すでにITの波は届いており、例えば「即見積」サービスや、ミスミの『meviy』のような特注部品の「設計&製造&図面のデータベース化」といったサービスが、徐々に台頭してきています。

IT関連で今後進みそうなサービスとしては、
・無償CAD(製造側が発注側企業にツールを無償提供し、その後の製造を独占)
・試作段階での量産一括見積&手配(開発段階で量産時のコストと手配先が確定)
・デジタル完結型開発(試作自体が不要に)
・3Dプリンター等の新しい技術の活用を前提とした設計・製造
などでしょうか。

いずれも親会社と下請けの間に割って入るサービスなので、寡占化が進めば強力な力を持ち、下手をすればそのグループに入っていないと受注が回ってこなくなるような時代になるかも知れません。

ITが強力な力を発揮する分野では、利ざやは取りにくくなります。
例えば、ネット通販により消費者は低価格のモノが手に入り易くなりましたが、メーカーは利ざやが減って疲弊しました。今後、親会社との間にも割って入られれば、町工場に落ちるお金の原資はさらに減ることになります。
従来の加工だけに特化したビジネスでは、大田でもよほど高度または特殊な技術を持った会社しか、潤わなくなるかも知れません。

時代の大きな流れは止められないと思います。ならば、いち早く対応するのが上策です。
競争にスピードは非常に重要です。
優位が残っているうちに、敵が攻めてこないうちに、次の有望なターゲットを攻めなければ、チャンスは何度も巡っては来ないと思います。

僕が思う次の有望ターゲットは、加工の上流工程である『企画』、『開発』を絡めた以下の分野への進出です。
・農漁業などの機械化が遅れた産業分野(日本以外では成長産業です)
・シーズがありながら産業化ができていない有望ベンチャーやアカデミック分野
⇒ 製品化、事業化の請負/例えばAIの“手足”となるロボットパーツの開発・製造等
・自ら市場を調査、企画して、アイデアをカタチにする開発分野(自社製品)
など

これからの経営に必要なのは、スピードと巻き込む力だと思います。
モノづくり分野のスピードアップが難しいのは先に述べたとおりです。
でも、自分達で出来なければ、その力を持った外部の企業(IT企業も含む)や人材を巻き込めばいいと思います。
皆さんが持つ加工ノウハウは間違いなく強みです。そしてこの地域にはほとんどの加工に高度に対応できる町工場が揃っています。

しかし、現在は顕在化されておらず、また、分散もされています。
纏まることができれば大いなる強みを発揮できると思いますし、「外部を巻き込む力」にもなり得ると思います。
また、力を合わせて新しいノウハウを構築して共有できれば、全体のさらなるレベルアップも可能だと思います。
一社一社は小さくても、力を合わせれば大きな力となります。

大田地域の製造技術は、依然として注目されています。
何か事を起こす時には注目を集め、外部の組織、人材を惹きつける力がこの地域にはあります。

これからは大田の一企業として、皆さんと力を合わせて次の有望市場にいち早く進出し、ビジネスを作るといった活動に取り組んでいきたいと考えています。

これまでも大変お世話になりましたが、これからも引き続きよろしくお願いします。

大田ゲートウェイ株式会社
代表取締役 淺野 和人

(おわり)

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