COLUMN

事なかれ主義の蔓延

2012年03月

年始に続けて医療関係者の話を聞く機会がありました。
一回は㈳大森工場協会の賀詞交歓会での東京労災病院脳神経外科医の氏家先生の講演、もう一回は東京工業大学の医療機器開発組織であるライフ・エンジニアリング機構の梶原先生(こちらは工学部の先生です)との面談です。
両先生が共通して触れておられたのは、日本の医療機器認証の問題点でした。
同認証は厚労省傘下の(独)医薬品医療機器総合機構が行っています。認証取得にかかるコストおよび期間は膨大で、実用化に時間がかかり、有望な技術が海外流出していく一因ともなっています。
人命がかかる認証ですから、慎重に厳密に行う必要があります。但し、慎重過ぎたり、厳密過ぎたりすると、今度は遅きに失し、救える命を救えなくなってしまいます。
穿った見方かも知れませんが、私には失敗を恐れるが故の「事なかれ主義」に傾いているようにも見えてしまいます。

事例として、薬害エイズ問題は記憶に新しいところです。血友病の治療薬として、当時としては画期的な治療薬であった血液凝固因子製剤(いわゆる非加熱製剤)を使用した患者さんにエイズ感染が広がりました。
厚労省の責任も問われ、厚生労働大臣が謝罪し、和解するという事態に至りました。
この不幸な問題の反省すべき点は、「薬の承認をしたこと」では無く、危険性が指摘された後に、「迅速にしかるべき対策を打たなかったこと」にあります。
薬に問題が発生したこと自体については、認証当時は誰も分からなかったことであり、何とも出来なかった問題だった思います。

問題を改善するには、良かったことと、悪かったことを明確に分け、検討する必要があります。
原発問題でもそうでしたが、問題が起きた時に、それまでの経緯や検討のプロセスを一切無視して、一気に全否定に走るのは建設的な思考ではありません。
また、一歩を踏み出した勇気は評価せず、“結果的に”失敗した場合は容赦なく叩く。一方、一歩を踏み出さなかった“結果として”チャンスを逃した(医療の場合は救える命を救えなかった)としても何らお咎めは無い。
このようなシステムでは何もしないのが一番のリスクヘッジになってしまいます。
当然のように「事なかれ主義」が蔓延し、結果として全員が損をするのです。

医療分野に置いては、日本の医療機器メーカーでさえ、最近は国内での認証取得よりも海外での認証取得にシフトしていると聞きます。残念ながら合理的な選択であると言わざるを得ません。
これではせっかくの技術を国の為に生かすことが出来ません。先端医療は受けられず、海外から、数年落ちの高い薬と医療機器を輸入して使うハメになっています。
これではいったい何のための、誰の為の認証制度なのでしょうか?

子供の心臓移植は渡米して行われます。日本では15歳未満の臓器提供が認められていなかったためですが、条件が緩和された今も実際の事例は殆どありません。
心臓移植はドナーの死を前提に成り立ちます。国内で臓器提供の道を閉ざしておいて、海外の他の子供から心臓を貰い受け、その国の移植待ちをする子から移植のチャンスを奪うことがこれからも認められるでしょうか?

前例は無ければ作るものです。前例が無いと言ってしまえば、百年経っても前例は生まれません。時期尚早という人は百年経っても時期尚早と言う人でしょう。(Jリーグ初代チェアマン 川渕氏の言葉より引用)
それぞれが置かれた立場で、その責任を果たす勇気と責任感を持って進まなければ世の中は良くなりません。
今回は医療を取り上げて書かせて貰いましたが、至る所で同じような問題が起きています。
誰かが一歩を踏み出す時にその勇気を称え、それぞれがそれぞれの立場の責任を果たしていくことが次の一歩につながります。
次世代の子供達の為にも“今”が責任を果たすときです。

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