COLUMN

大田の工業の進む先?

2011年11月

10月の中旬、僕は人生で初めて漁船に乗りました。場所は大分、釣り上げるのはタチウオです。但し、僕が行っていたのはタチウオを釣り上げることではなく、タチウオを釣り上げる漁師さんの観察です。漁師さんと私の他に3名の同乗者が居り、工連の会員企業の2名の経営者と、水産系研究機関の担当者といった布陣です。
なぜそのようなことをしていたかと言うと、ある経緯から漁船で使用する漁具(具体的には仕掛けを海に投入する投縄機と船上で魚の目方を量る秤)の開発を手伝うことになったからです。
その経緯はさておき、僕は大田区の工業の進む先として、第一次産業との連携が有望だと思っています。
随分前の「独り言」に書きましたが、日本の食糧自給率は4割程です。海に囲まれ、世界第6位の排他的経済水域を持つ日本ですが、水産物の自給率がなぜか6割程であるということはあまり知られていません。
実は、日本の漁業従事者の約9割は沿岸漁業従事者であり、家族単位の零細規模の経営が多く、大田区の工業と同様に、高齢化と後継者不足問題に悩まされています。
せっかくの水産資源も、それを獲得する為の仕事に従事する人が居なければ活かすことは出来ません。魚が勝手に家庭の食卓の皿の上に飛び込んでくることは無いのです。
水産資源の管理も当然ながら重要な問題ですが、それ以前に漁業の魅力を高めなければ、現場で働く人が居なくなってしまいます。
漁業の肉体的負荷をものづくりの力で少しでも軽減し、少しでも楽に、効率的にこなせるようにすることは、漁業の魅力を高めることに繋がると思っています。

農漁業分野は、永らく保護政策が採られてきた分野であり、生産性の向上は工業に比べて進んでいないと感じます。日本の農家一戸あたりの耕作地面積は、機械化が進んだ現在においても未だに平均で2ha以下ですし、漁港は日本の海岸線3万4千kmに対して2,916港ありますから、単純に計算すると11kmに1港の配置がされています。海岸線は島の海岸線も含みますし、複雑に入り組んでいるので、実際の配置距離はその半分くらいではないでしょうか。
これまでの政策では、生産性よりも従事者数の維持に重きが置かれてきたことは否めません。しかしながら、その従事者が減少し、国策として自給率向上の重要性が増していく中では、今後は従事者1人あたりの生産性の向上が大きな課題になっていくはずです。
最先端の工業分野の研究開発と違い、農漁業分野は工夫次第で生産性を上げることが十分に可能であり、大田のものづくりのノウハウを活かせる余地が極めて大きいと思っています。
ハイテクではなく、ハイレベルなローテクの力で改善できる現場が、第一次産業には多く残っているのです。

もうひとつ、第一次産業に空洞化はありません。日本の米作りが海外に移転したり、沿岸漁業が国内から無くなることは考えにくいですよね。
逆に、生産性を上げることができれば、食料を必要とする国に輸出も可能です。
食料は命に直結する資源です。輸出できる食糧資源を持っておけば、いざと言う時に役に立つはずです。その為に工業ができることは沢山あるのです。

最後に、乗船後に地区の漁師さん達と飲みに行きましたが、その元気さには圧倒されました。私たちは慣れない早起き(4時過ぎ起床)と、乗船でくたくたになっていたのに、夜の11時を過ぎても全く疲れを見せない漁師の方々(年齢は60歳オーバー)の体力に驚くばかりでした。とても気の良い方々で、心から楽しそうにその瞬間を生きていらっしゃる感じがあふれ出ていました。
旨いもん食って、楽しく働く!人間、楽しく生きなきゃいかんなぁと、改めて実感させられました。

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